今年も実家に、庭木として植えている蜜柑の木に鮮やかな実がなりました。 以前、私たち家族は、マンション暮らしだったため、ベランダでは育てられなくなり、親切な知人のお宅にあちこち引っ越しを繰り返していた苗木でした。 いつか家を持ったら自分の庭に…と、当時から思っていたんでしょうか。父親は嬉しそうに苗木を持ち帰って来たと記憶しています。 家族みんなの念願だった一戸建て。誰よりも喜んではしゃいでいたのも父でした。そして、回り回って帰ってきた蜜柑の木。 ところが、マイホームの夢が叶って一年経たぬ間に、突然の父の死… 父は蜜柑の実りを見ることなく逝ってしまいました。 先日実家に行き、私はふと気付いてしまいました。 マンションに住んでいた時は飾っていなかった母の写真のこと。私たち娘の七五三すらパネルにまではしていなかったのに、この写真は裏側が木製のしっかりした大きなパネルなんです。そう言えばこれ、ここに越してきてから、父がどこからか出して来て、書斎に飾り始めたんだよな、と。 写真の母は今よりうんと若くて、娘の私がもうその歳を超えました。蜜柑の木の前でその粒をほおばりながら、カメラを向ける父へにっこり笑っています。 蜜柑…蜜柑…みかん!? もしかして、父は母のこの笑顔が大好きだったのではないかと。 家庭を持てば、きっといい思い出ばかりではなかったことは、嫁いだ私もわかります。時には子供の前でも派手にやりあっていた両親。「そんなに嫌なら離婚したら!」と娘の私が怒鳴ったこともあったな…。それでも一緒に私たちを育て上げ、これからまた夫婦で仲良く暮らしたいという父の想いだったのではないかと。 父と母の素敵な思い出と、新たな門出のはずだったマイホームに帰ってきた玄関前の蜜柑の木。そんなふうにリンクしてしまい、収穫した蜜柑を食べながら、甘酸っぱさと、父親の想いが重なって、胸がきゅっとしました。
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