自殺未遂を繰り返した彼はいつも言っていた。
『女もギャンブルもつまらなくて毎日退屈で生き甲斐もないんだよ』
『俺には何の価値もない。だからお前の遠くに行かなくちゃ。離れなくちゃいけないんだよ』
そして秋、彼は飛行機で遠くの街へ行くと言った。行き先は教えてくれなかった。 もしかしたらずっとこの街に居たのかもしれないけれど、私は彼の意識や魂を遠くに感じてしまっていたから。 もう逢えないような気がしてただ悲しかった。
いつも夢中だった。 口を開けば暗い話ばかりして寂しい目をした人だった。でも私は彼の、厭世的で少しイカれた空想話が好きだった。
『俺また死のうとしたけど頭ん中お前の顔でいっぱいだった。お前笑ってんだよ。苦しかった。 死にたくねーって思った』
私はこの時彼をとても近くに感じたんだよ。 この人を守ると決めた。
彼はある日、私に会いに来てくれた。 ずっと笑ってた。 笑顔なんて見たことなかったから、 頼りなくて優しすぎるその顔に私はときめいてどうしようもなかった。
夜、彼は何度も私を抱いて抱いて、そして何度果てても離さなかった。
朝、バイバイって笑って別れたあと彼は死んでしまった。
ねえどうしてだろう 私泣く事もできない。 悲しいんだけど、 涙が出てこないんだよ。 泣きたいのにね。 でも心は穏やかなんだよ。彼の精神を理解できたのかな。 彼は楽になれたのかな。
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