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『勝手にすれば?』

あたしはあきれて電話を切った。
明日のデート、用ができたから無理だって。

…用って何?

あたしが聞くと、合コン(笑)と流された。

久しぶりのデートの約束を破られたことに苛立ち、冷静に考えられず、勝手にすれば?と言ってしまった。
ホントはそんなことが言いたかったんじゃない。悲しくてなんていったらいいかわからず、つい強気な態度になってしまった。

明日はあたしの誕生日なのに…。


次の日。
あたしは何も予定がないまま二十歳を迎えた。ホントなら今頃彼氏と……。

突然、ケータイが鳴り響いた。彼氏の友達から。電話にでると、彼は泣いていた。

一瞬、心臓を何かが突き刺すような嫌な感じがした。

そして彼は震えた声をやっとのことで絞り出すかのようにこう言った。

『お前の彼氏……死んじまったよ…』

…………………え?

あたしは突然の友達の言葉に理解できず、思考回路が止まった。

彼は声を詰まらせながら続けて話す。
彼氏はあたしの誕生日プレゼントに悩んでて、友達についてきてもらい、やっと買うことができて微笑んでたということ。
後であたしのアパートにきて驚かせてやろうとしてたこと。
そして……くる途中に信号無視をした車にバイクごと跳ね飛ばされ……亡くなったと……………

ぁたしは全く信じられなかった。そんなドラマみたぃなことが起こるはずなぃと。もしそれがホントなら、あたしは夢を見ているのだと思いたかった。

しかし、現実は甘くなかった。



彼の家へ行くとすでに多くの人が集まっていた。
黒装束の人の群れ。
あちこちですすり泣く声。お線香の香り。
大きな紫色の花輪。
独特の重たい空気。
それでもまだ信じられなかった。
空からは6月の雨がシトシトと流れ落ちていた。まるであたしの心をうまく読み取ったかのように……
たぶん、あたしは悲しいんだ。でも頭が真っ白で涙さえでてこなかった。

列になり、焼香の番が回ってきた。彼氏の両親に一礼し、彼氏の顔を見た。
とても綺麗な顔をして、眠るように静かに目を閉じていた。名前を呼んだら目を覚ますんじゃないかと思った。

あたしは思わず彼氏のほほに手を当てた。

……………冷たい…………

このときあたしはやっと現実を受け止められた。彼氏はもう決して目を覚まさないのだと………
それと同時に、今まで閉ざされていた思いが一気に込み上げてきた。

もう彼氏の隣を歩くことは二度とできない

手を繋ぐこともできない

ギュッと抱きしめてくれることも

優しい声を聞くことも

そして……もう一度聞きたかった『好きだよ』の言葉も…

あのときあたしが電話を切らなければ…怒ったりなんかしなければ……


『ゴメンッッ…ゴメンネ……!!!』

声にならない声でその場に泣き崩れた。
あたしを見た参列者のすすり泣きの声がさらに大きくなった。


やっと落ち着き、とうとう出棺の時間になった。
彼氏の友達があたしを呼び、小さな箱を渡した。

『これさ、あいつがお前に買った誕生日プレゼント。お前が喜ぶ顔が見たかっただろうな…』

あたしは箱を手にとり、開けて中をのぞいた。
そこには、ハートのピンクダイヤがうめこまれた指輪と紙が入っていた。


Happy Birthday!
ずっと愛してるよ


クラクションの合図とともに彼氏が遠くへ離れていく。

あたしは指輪をギュッと握りしめた。
一粒の雫がほほをまたつたった。


…愛してるよ…


あたしは精一杯の歪んだ笑顔で見送った。

車が見えなくなっても、いつまでもいつまでも見送った。


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