あれは小5の時だった。 朝いつも通り起きたら家の中がせわしない。まだガキの僕はその時何が起きているのか分からなかった。 母と祖父にとりあえず学校に行きなさいと言われた。何があったのか聞き返しても返事は「後で」の一言だけだった。 とりあえず僕は学校へ行った。だけど僕はその母の態度に苛立ち飛び出すように家を出てので気付く事が出来なかった。 いつも笑顔で「いってらっしゃい」と手を振ってくれる祖母がいない事に。
僕が学校を終えていつも通り友達と寄り道をしていた。何も考えずに無邪気に遊んでいた。大変な事態が起きているともしらずに。
空が暗くなって星が光り出した頃家に帰った。いつもは明るくうるさい祖父がテレビもつけずにテーブルに顔を伏せていた。 いつもならご飯を作って「また寄り道してきたの!!」と叱りながらも待ってくれているはずの母も見当たらない。 そしてその時始めて気付いた。 祖母が家にいない事に。 まだ幼い僕は訳がわからず母の携帯に電話した。
夜中に祖母が倒れた。
静かに母は言った。
それでも事態が把握できず祖父にも聞いた。祖父は泣きじゃくって返事をしてくれなかった。
病名はあの名作『世界の中心で愛を叫ぶ』でも題材としてつかわれていた白血病だった。
祖母は入院していた。
僕はその頃かなり度を超えたヤンチャ坊主だったのでお見舞いも一回しか行かないまま気にも止めず友達と遊びまわっていた。 小6になって間もないある日学校から帰ると誰もいない家の電話がなり出した。 祖母だった。 昔とは正反対の弱った声で久し振りだねど僕が出て事を喜んでくれた。電話の内容はお見舞いに向かう祖父に欲しい物を要求する電話だった。 だか祖父はもう向かっている最中らしく家にはいない。仕方なく僕が自転車で後を追うはめになったのだ。 途中のスーパーでばあちゃんが好きだったヨモギ大福を買うついでにお見舞いもと思って無邪気に自転車をこいだ。 結局祖父には追いつけず病室で会ったのだった。 約3ヶ月ぶりに見た祖母は僕の知っている祖母ではなかった。
食欲がないせいか体や顔は痩せこけてしまっていて骨が目立っていた。 頭は薬の副作用で髪の毛がほとんど無くなっていた。 それでも僕の前では笑顔でいてくれた。まだ考え方も行動もガキくさい僕でもばあちゃんが無理してる事が分かっていた。 医者にはあと半年しかないと言われたと笑顔で話してきた。僕はそんな事信じないと逃げるように帰ってしまった。
そのまま月日は流れて僕は中学に入学した。 元々流されやすい僕は入学して間も無く俗に言うヤンキーになった。 家には帰らず友達と遊びまわり学校も行かずめちゃくちゃな毎日だった。 バイクを盗んでみんなで捕まったりシンナーを吸って変な匂いをさせながら母ちゃんを殴ったり、鬼畜のような事を繰り返していた。
今思うとあれはばあちゃんの事から逃げていただけだったのかもしれない。
夏休みに入る前のある日。僕がいつもの友達の家にいると、何故か母が来た。もちろん出る訳がなかった。 だが母は真っ青な顔で「裕也来なさい」と玄関で怒鳴った。 近所迷惑になるので仕方なくでて行って僕の腕を母は何も言わずに引っ張って車に乗せられた。 病院へ向かう途中母は何を聞いても答えてくれなかった。 ただ僕は気付いていた。母のハンドルを握る手が震えていた事に。
病院へ着くと母は僕を引っ張りながら走った。エレベーターも使わず階段を必死にかけあがった。 ばあちゃんの病室が近付いてくると医者やら看護婦やらがせかせかと動きまわっていた。 僕は怖くなって逃げたくなった。
腕を引っ張る母を振り払おうとしたが母は強く睨み付け、その手を離そうとはしなかった。 病室に来てしまった。
二人部屋を一人で使っていたのでたくさんのひとが中にはいた。 僕は入り口付近に立ち祖母を見ないようにしていたが母に「ばあちゃんが裕也を呼んでいる」と言われベットの隣に立った。
そこにいたのは祖母ではなかった。骸骨に皮を貼ったような祖母が鼻にチューブを入れて「カハッカハッ」と変な呼吸音がしながら体はえびぞりの様に中途半端に起き上がり白目を向いていた。
僕は怖くなってただ呆然と立ち尽くした。
信じられなかった。
信じたくなかった。
母が祖母の手を掴み僕の手に寄せてきた。祖母のてはもう冷たい様な感じだった。
周りはみんな泣いていた。
僕だけ泣けなかった。
多分現実から逃げていた。
心の中では理解してるのにそれを受け入れたくない為に表明に感情が出なかった。
この時点で祖母が入院して2年が経っていた。 医者も奇跡だと言っていた。それほど祖母は逝きたくなかったのだろう。 今になってやっと理解できたかもしれなぃ。
その日はもう夜中だったので僕ら子供はみんな帰された。 僕はいままでお見舞いなどをないがしろにして来たので残ると言ったが帰された。
次の日、とりあえず学校に行かされた。僕も逆らわず素直に学校へ行った。 もちろん友達に誘われたが行く気がしなかった。 それよりも早く帰りたかった。
やっと授業を終えて(と言っても勉強はしてないが)足早に家に帰った。
帰る途中、僕はコンビニでヨモギ大福を買った。 レジの前に並んでいた物を全て買った。全部で20個くらいあったが気にしなかった。
家に着くと祖母は帰って来ていた。
冷たくなってお座敷に寝かされていた。
僕は部屋に戻った。
悲しかった。
だけど泣けない自分がそこにいた。
僕は窓を開けて隣の林に向かって買ってきたヨモギ大福を一つずつ投げた。 何故あんな事をしたのかは未だにわからなぃ。
僕は外に出た。
親戚が来た。
喪服で「おばあちゃん帰って来たねぇ」と話し掛けてきた。
僕は無視した。
祖父も外に来た。
泣いていた。
僕はいきなり殴られた。年寄りのパンチなど痛くもないのだが泣きながら殴ってくる拳は僕の心を殴られているようだった。祖父は僕に「お前が心配かけたからばあちゃんが死んだ。お前さえ真面目にちゃんとしてれば死ななかった。」と言われた。
悔しくて悲しかった。
だが何も言い返さなかった。 言い返す気力さえなかった。
お通夜が始まると僕はさらに何もしなくなりただばあちゃんの遺影を眺めながらイスに座っていた。 棺桶を除いても涙すら出なかった。
お通夜が終わり出棺になった時みんなが棺桶に花などを入れ始めた。 僕も花を渡され、とりあえず棺桶に入れた。
その時の祖母はまるで神様だった。 安らかな顔で花に囲まれて、とても綺麗な顔だった。人間死ぬとこんなにも綺麗になれるんだと思っていた。
そして棺桶を閉めるとき、風船が破裂したかのように何かが自分の中で破裂した。 その瞬間、涙が止まらなかった。 それまで一滴も泣かなかったのにどんどん涙が溢れて来た。
棺桶に釘を打つ時、僕は泣きじゃくって打てなかった。 みんなに最後くらいはばあちゃんの為にしっかりしなさいと言われたが何も出来なかった。
思い出した今でも悔しくて涙が止まらない。
僕は最後までばあちゃんに心配をかけて、ばあちゃんの為に何もしてあげられなかったと思う。
そんな僕をばあちゃんは可愛いがってくれた。 僕の名前を呼んでくれた。 今でもいつかばあちゃんが「裕也〜さつまいも蒸したけん食べんね」って言ってくれそうな気がする。 今まではさつまいも何て誰が食うか的な感じで無視して来たが今なら食べたい気持ちでいっぱいだ。お腹いっぱいこれでもかというくらい頬張りたい。
だけどそれはもうできない。
今でもばあちゃんの夢を見る。ばあちゃんの病気が治って楽しく話している夢だ。
ばあちゃんは半年で死ぬと言われたのに、生きたいという気持ちだけで2年も生きた。
だから僕も精一杯生きよう思う。 人生に悔いが残らないように。
ばあちゃん
僕は頑張ってるよ 本当に今までありがとう
ばあちゃん
僕ばあちゃんが大好きだょ
ありがとう ばあちゃん
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