私の父は8年前に亡くなった。 私が25歳の時。まだ、58歳だった。
父の葬式が終わって、父の私物を母と整理している時、茶色に変色したノートを見つけた。懐かしい、ジャポニカの学習帳だった。
『何だろう?これ?』
表紙をめくると、『しょうわ55ねん4月14日』の日付の後に、漢字の交じったひらがなだらけの文章が書かれていた。
父との交換日記。
私が寝てから帰ってくることが多かったので、私との会話の代わりになればと、始まった交換日記。 たしか、小学校1年生の時から始まった気がする。
私は、その日に学校であった出来事を書き、父はその返事を書いてくれていた。
『きょうは、ききちゃんとゆうくんとおままごとしてあそびました。わたしは、おかあさんでした。ぱぱにもごはんつくってあげるね。』 『ききちゃんではなくて、さきちゃんではないのですか?ごはんたのしみにしていますよ。』
『きょうは、まみちゃんとけんかをしました。せんせいにおこられてないてしまいました。』 『まみちゃんとはなかなおりしましたか?はやくなかなおりして、またなかよくあそんでくださいね。』
父が亡くなった直後でもあり、幼い頃の思い出に浸るよりも、目頭が熱くなり、こみ上げてくるものを抑えるのに必死だった。
私はそれを母に見せることなく、自分の部屋に持ち帰り、何度も何度も読み返した。
涙が止まらなかった。
今、私にはこの春小学生になった娘がいる。
『ママ〜、これパパに渡してね』 娘に言われて、私はノートを受け取る。
そう、娘も交換日記を始めたのだ。
夫が、私の交換日記の話にえらく感動したようで、『よしっ、俺もあいつと交換日記してみるか!!』と、娘の小学校入学を機に始めたのだ。
『ママ、これはパパと二人だけの秘密だから、見ちゃダメだよ!!』 『は〜い、わかりました』
娘もすっかり乗り気だ。
あの頃の私も、こんなことを母に言っていたのかもしれないと思うと、何だか微笑ましくなってしまう。
もうすぐ父の命日だ。 そう思った私は、ペンを手に取り、娘の日記に続けた。
『お父さん、交換日記ありがとう。ママより』
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